仏教入門 おしえて千葉先生 対談第三回
本願寺広島別院・安芸教区教務所 機関誌「見真」2007/05号
千葉乗隆 千葉山安楽寺 浄土真宗本願寺派

◎本願寺史研究の第一人者に聞く 対談第三回
  聞きたい 親鸞聖人の魅力!
千葉乗隆イラスト
明田:
 先生が感じる親鸞聖人の魅力を教えてください。読者の皆さんも聞きたいと思うんです。
千葉先生:
 では、親鸞聖人のご結婚のエピソードから話しましょう。

明田:
 エッ、聖人の魅力とご結婚に、何かつながりがあるんですか?
千葉先生:
 親鸞聖人の魅力は、自分に嘘をつかない生き方です。僧侶でありながら結婚されたこと、妻・恵信尼さまとお互いを尊重し合われた人生にあらわれています。

明田:
 もっと教えてください。
千葉先生:
 当時、お坊さんの結婚は厳禁ですが、密かに女性と関係を持つ者がたくさんいました。親鸞聖人にとって、隠れて戒律を破るお坊さん(破戒僧)の現実は耐えられないことだったのです。悩んだあげく、ついに修行の地・比叡山を下りられます。そこで出会った法然さまは、「もし結婚した方がお念仏を称えやすいならそうしなさい」と勧めらました。

明田:
 そうですか。
千葉先生:
 また結婚を決意したのは親鸞聖人31歳のときで、六角堂の観音菩薩から受けた夢のお告げによってです。「あなたが結婚したいなら、私(観音菩薩)がその女性になつて、一生あなたにお仕えしましょう。いよいよ死ぬときには、共にお浄土に参りましょう」という内容です。この2つのことから世間に隠すことなく結婚をされたのです。

明田:
 親鸞聖人への風当たりは厳しかったのでは?
千葉先生:
 はい、確かに厳しかったと思いますが、世間体よりも自分をごまかせなかったのです。ここで結婚生活についてですが、妻・恵信尼さまも不思議な夢を見られています。法然さまが勢至菩薩の化身であるという夢です。翌日、親鸞聖人にそのことを話すと、それは正夢だとおっしゃる。昔から法然さまは勢至菩薩の化身と言われていたのです。しかし、恵信尼さまの夢には続きがあって、親鸞聖人も観音菩薩の化身としてあらわれていたのですが、そこまでは話されませんでした。

 親鸞聖人が亡くなってから、夫の親鸞さまは観音さまの化身″と思ってお仕えしていたとお嬢さんに手紙で知らせています。お2人の夫婦生活には喧嘩もあったかもしれませんが、それ以上にお互いを大切にされあったのでしょう。相手は私を導いてくださる菩薩さまなのですから。

明田:
 親鸞聖人も恵信尼さまも、心でお互いをおがみ合われていたんですね。僕にも、親鸞聖人のような生き方ができるでしょうか?
千葉先生:
 聖人の魅力は、全てを真正面から捉えて、心をさらけ出されるところです。いつもご自身に厳しい目を向け「愚禿親鸞」とおっしゃる。「愚かな未熟者」という意味です。私は、なかなか物事を真正面から取り上げようとしません。横から眺めて、「こう言うと差し障りがあるのかな」と利口ぶって、「人さまに馬鹿にされないように」といった毎日です。しかし私も、親鸞聖人のような厳しさを持った生き方を、なかなかできませんが、お手本にしています。

明田:
自分自身への厳しさか…。う〜ん。

「お話し」: 千葉 乗隆:本願寺史料研究所所長 龍谷大学名誉教授
「聞き手」: 明田 周士:安芸教区機関誌『見真』編集部
「イラスト提供」: 竹林地 俊人