仏教入門 おしえて千葉先生 対談第五回
本願寺広島別院・安芸教区教務所 機関誌「見真」2007/08号
千葉乗隆 千葉山安楽寺 浄土真宗本願寺派

◎本願寺史研究の第一人者に聞く 対談第五回
  親鸞聖人の選択!!
千葉乗隆イラスト
明田:
 僕、あれこれ悩む ことに疲れました。仕事 や恋愛、人間関係‥‥。 深く考えず感じるままに 行動できれば、もっと楽 に過ごせると思うんです が、何かイイ方法はない でしょゝつか?
千葉先生:
 そうですね。 確かに、悩んでばかりじや 大変ですが、ときには、 納得できるまで考えてみ ることも大切ですよ。

明田:
 そう言われると、 ますます悩んでしまいま す。僕は、早く、楽にな りたいんです。
千葉先生:
 あんまりあせ らないで、一緒に考えて みましょう。親鸞聖人は 29歳で、20年間も修行し てきた比叡山を下りられ ました。とても勇気のい る決断なのですが、聖人 は、20年間悩み抜き、考 え抜いて、心から納得で きる道を歩まれました。

明田:
 でも、僕は自分が 信じる道を進みたいと思 っても、勘違いして、ウ ソの道でもホントの道だ と思い込んで突っ走って しまいそうです。ここに は、大切なポイントがあ るのでしょうか?
千葉先生:
 聖人は、ご自 身の判断だけで生きる道 を選んだのではありませ ん。比叡山で培われた、 「修行」と「学問」した キャリアがあるわけです。 ポイントは、むやみやた らに修行したのではなく、 正邪をセレクト(選択) した実績です。20年間、 できるだけ「正」に近づ こうと修行してきた上で、 その考え方こそが誤りだっ たと気付かれた。「正」 を求めれば求めるほど、 ご自身の「邪(よこしま)」 な姿が見えてきたのです。

明田:
 20年間悩み考えて、 これまでの自分は間違い だとおっしゃるのですか? でも先生、正邪をセレク トって、ホントかウソか を見極めるつてことです よね。「正」に近づくこと が誤りなんて、聖人には、 何か判断の基準があった んですか?
千葉先生:
 きっかけは、 やっぱり、法然さまとの 出会いでしょう。聖人は 比叡山のころから、法然 さまが説く念仏の教えを ご存知でした。聖人の先 輩にも法然さまに帰依す る者があったので、予備 知識は充分持っておられ たわけです。やがて下山 の決意をされますが、そ の後、教えを聞き納得す るまで、法然さまのもと に100日間も通い続けたと いいます。

明田:
 ここで初めて、法然 さまの教えが心から納得 できたということでしょ うか? まさに、20年間の 葛藤があってこその転換 ですね。
千葉先生:
 そうですね。 「雑行を棄てて本願に帰 す」という聖人の一言は、 20年間を抜きには語れま せん。そしてここには、 法然さまに出会えた、納 得できる道に出会えたと いう、聖人の力強さが感 じられます。

明田:
 先生、冒頭にもあっ た「心から納得できる道」 とは、どんな道ですか?
千葉先生:
 それは、自分 が修行して悟りを開こう なんて思っていたのが、 大間違いだったというこ と。自分の力なんてとん でもない、仏さまにお任 せする以外に 自分が進むべ き道がない、 ということを 聞き、心から うなずかれた のです。  どうですか? 明田くんも、 比叡山で20年・・・・。

明田:
 な、長い

「お話し」: 千葉 乗隆: 本願寺史料研究所所長 龍谷大学名誉教授
「聞き手」: 明田 周士:安芸教区機関誌『見真』編集部
「イラスト提供」: 竹林地 俊人