前門様をお偲びして
四州教区だより 2002/9/15
千葉乗隆 浄土真宗本願寺派 千葉山安楽寺
○他人を思いやる温かいお心  徳島西組安楽寺住職 千葉 乗隆
 私がはじめて前門さまにお会いしたのは、龍谷大学二年生の1939年(昭和14)でした。 四州教区へご巡教の途次、宇高連絡船の中で宮地廓慧先生に連れられて、前門さま (当時ご門主さま)の居られる船室にお伺いしました。前門さまは「学生時代には学問研究に精進 することが大切です」とお諭しくださったのでした。     それから半世紀の時を経て、1989年(平成元)、私は国際仏教文化協会の理事長に就任し、 前門さまに親近させていただくことになりました。この協会は、前門さまのヨーロッパの念仏者を援助しようとのご意向によって1980年(昭和53)に設立されたもので、二年に一回ヨーロッパ において前門さまご臨席のもとに会議が開かれます。会議では、前門さまはご堪能な英・独・仏 の三か国語で、熱心に仏法を説かれました。

 前門さまは近寄りがたい威厳を備えておられましたが、他人を思いやる温かいお心と、気さくな性格のお方でもありました。

 パリのギメ博物館を訪問したとき、「きょうは地下鉄で行きましょう」と言われて、先頭にたって道案内をしてくださいました。行く先々で地図を買い求めて、よく調べておいででした。     レストランなどで食事のとき、「なにを食べますか」と言われます。でも私にはフランス語のメニューは全く理解できません。困っていると、前門さまはメニューを指さし、料理の内容を説明してく ださるのでした。

 ベルリンでは、東西ドイツが対立していたときの「ベルリンの壁を見ましたか」とお尋ねになります。「いいえ、まだ見ていません」とお答えすると、「それでは見に行こう」と、ご自身はすでに 見ていらっしゃるのに連れて行ってくださいました。ついで、第二次大戦末に米・英・ソ連の首脳が 会談したポツダムへ行き、「あなたは歴史家だから、ここを見ておく必要がありましょう」と言われたのでした。ありがたいお心遣いでした。