(仏教研修会 第335回) 2002/1/19 浄土真宗の歴史に学ぶ

『歎異抄』が語る親鸞聖人2

1.『歎異抄』は門外不出の秘書か

1.秘書とは

人に見せない書物。秘蔵の本。秘伝を書いた本。
大切な文書。
天子が秘蔵する書物。宮中の蔵書。
要職者の文書・事務を処理する人。

2.聖教の奥層

A 『選択集』 (法然)
こいねがはくば一たび高覧を経た後に、壁の底に埋みて、窓の前に遺す ことなかれ。おそらくは破法の人をして、悪道に堕せしめざらんがため なリ。 (建暦二年(1212)十一月、 『選択集』を出版。同年一月法然示寂)
B 『教行信証』 (親鸞)
「化身土巻」(末尾)
 「もしこの書を見聞せんもの、信順を困とし、疑謗を縁として、信楽 を願力に彰し、妙果を安養に顕さんと。」
尊蓮書写本奥書。
 「寛元五年二月五日、善信聖人御真筆の秘本をもって書写校合を加え おわりぬ。隠倫尊蓮六十六歳、今年聖人七十五歳也。」

浄興寺本(室町時代書写)
「これ当寺の秘書なり。他人に見せざるぺからざるものか。」

勝興寺本(室町時代書写)
 「真宗紹隆の鴻基、実教流布の渕源、末世相応の目足、即往安楽の指 南なり。」

専修寺本(慶長五年書写か)
 性信法師が親鸞聖人から相伝の教行信証を、性信法師の夢告によって 性海法師が正応四年(1291)八月に出版。ただし、正応の版本は 現存しない。その後、寛永十三年(1636)に出版。

3.外見(げけん)あるべからず(後記)
 『歎異抄』の本文は、「外見あるべからず」と、念仏者以外の人には見 せないように、との言葉でしめくくつている。また、蓮如は奥書の中に、 「無宿善の機においては、左右なく、これを許すべからざるものなり」と、 仏法に縁のない人には容易に見せないようにとしるしている。

 これらの言葉を厳しく理解して、本願寺の倉庫にとじこめ非公開の書と し、人には見せなかったとする説がある。

 しかし、浄土真宗の聖教の奥書には、このような文言が多く見られる。 たとえば、覚如著『口伝鈔』を例にあげると、龍谷大学所蔵本の覚如奥書 には、「ふかく箱底(そうてい)に納めて閥(こん)(門の敷居)を出づることなきのみ」とあ り、大阪真宗寺所蔵本の綽如(1350~93)奥書には、「当流安心無 双の秘書也、ただし初心始学の族は、更にもつて一見を許すべからず、免 あるべからざるものなり」とある。

また、大阪浄照坊所蔵本の蓮如奥書に は、「外見かたがた斟酌(遠慮)あるべきなり」とあり、さらに滋賀福田 寺所蔵本の蓮如奥書には、「宿善開発の機は、披見すべきものなり」とし るしている。

 このほか『教行信証』 『愚禿鈔』 『未燈鈔』 『六要鈔』等の写本の奥書 にも、この種の文言がしるされており、これは聖教を大切に取り扱うこと を求めた言葉であると理解すべきであろう。

したがって『歎異抄』の「外見あるべからず」等の文言は、本書の取り扱いにはよく注意するようにと のことで、決して本願寺の蔵にとじこめて見せないようにせよというので はない。また、実際に、『歎異抄』を室町時代に書写したものが十五冊、 江戸時代書写本もほぼ同じ数が現存しているので、『歎異抄』を禁書とし て封じ込めたということはなかった。