本願寺聖人親鸞伝絵 上 |
ほんがんじしょうにんしんらんでんね じょう |
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6 第六段 |
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おほよそ源空聖人在生のいにしへ、他力往生の旨をひろめたまひしに、世 |
おほよそ げんくうしょうにんざいしょう のいにしへ、たりきおうじょう の むね をひろめたまひしに、よ |
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あまねくこれに挙り、人ことごとくこれに帰しき。紫禁・青宮の政 を重くす |
あまねくこれに こぞり、ひと ことごとくこれに き しき。しきん・せいきゅう の まつりごと をおも くす |
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る砌にも、まづ黄金樹林の萼 にこころをかけ、三槐・九棘の道 をただしくす |
る みぎり にも、まづ おうごんじゅりん の はなぶさ にこころをかけ、さんかい・きゅきょく のみちを ただしくす |
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る家にも、ただちに四十八願の月をもてあそぶ。しかのみならず戎狄 の輩、 |
る いえ にも、ただちに しじゅうはちがんの つきをもてあそぶ。しかのみならず じゅてきの ともがら、 |
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黎民 の類、これを仰ぎ、これを貴びずといふことなし。貴賤、轅 をめぐらし、 |
れいみん の たぐい、これを あおぎ、これを とうと びずといふことなし。きせん、ながえ をめぐらし、 |
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門前、市をなす 。常随昵近の緇徒 その数あり、すべて三百八十余人と云々。 |
もんぜん、いち をなす。 じょうずいじつきん の しとその かず あり、すべてさんびゃくはちじゅうよにん と うんぬん。 |
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しかりといへども、親りその化 をうけ、ねんごろにその誨をまもる族、はな |
しかりといへども、まのあた りその け をうけ、ねんごろにその おしえ をまもる やから、はな |
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はだまれなり。わづかに五六輩に だにもたらず。善信聖人(親鸞)、あるとき申 |
はだまれなり。わづかに ごりくはい にだにもたらず。ぜんしんしょうにん(しんらん)、あるとき もう |
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したまはく、「予、難行道を閣きて易行道にうつり、聖道門を遁れて浄土門に |
したまはく、「よ、なんぎょうどう を さしお きて いぎょうどう にうつり、しょうどうもん を のがれて じょうどもん に |
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入りしよりこのかた、芳命をかうぶる にあらずよりは、あに出離解脱の良因を |
いりしよりこのかた、 ほうみょう をかうぶるにあらずよりは、 あにしゅつりげだつの りょういん を |
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蓄へんや。よろこびのなかのよろこび、なにごとかこれにしかん。しかるに同 |
たくわ へんや。よろこびのなかのよろこび、 なにごとかこれにしかん。しかるに どう |
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室の好みを結びて、ともに一師の誨を仰ぐ輩、これおほしていへども、真実に報 |
しつのよしみをむすびて、ともに いつし の おしえ を あおぐ ともがら、これおほしていへども、しんじつ に ほう |
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土得生の信心を成じたらんこと、自他おなじくしりがたし。かるがゆゑに、か |
どとくしょう の しんじん を じょう じたらんこと、じた おなじくしりがたし。かるがゆゑに、か |
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つは当来 の親友たるほどをもしり、かつは浮生 の思出ともしはんべらんがため |
つは とうらい の しんぬ たるほどをもしり、かつは ふしょう の おもいで ともしはんべらんがため |
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に、御弟子参集の砌にして、出言つかうまつりて 、面々の意趣をも試みんとお |
に、 おんでしさんじゅう の みぎり にして、しゅつごん つかうまつりて、めんめん の いしゅをも こころみ んとお |
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もふ所望あり」と云々。大師聖人(源空)のたまはく、「この条もつともしかる |
もふ しょもう あり」と うんぬん。だいししょうにん(げんくう) のたまはく、「この じょう もつともしかる |
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べし、すなはち明日人々来臨のとき仰せられ出すべし」と。しかるに翌日集会 |
べし、すなはち みょうにちひとびとらいりん のとき おおせられ いだすべし」と。しかるによくじつしゅうえ |
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のところに、上人親鸞のたまはく、「今日は信不退 ・行不退 の御座を両方 |
のところに、しょうにんしんらん のたまはく、「こんにちは しんふたい・ぎょうふたいの みざを りょうほう |
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にわかたるべきなり、いづれの座につきたまふべしとも、おのおの示したま |
にわかたるべきなり、 いづれの ざ につきたまふべしとも、 おのおの しめしたま |
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へ」と。そのとき三百余人の門侶みなその意を得ざる気あり。ときに法印大和 |
へ」と。そのとき さんびゃくよにん の もんりょ みなそのこころ をえざる き あり。ときにほういんだいか |
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尚位聖覚、ならびに釈信空 上人法蓮、「信不退の御座に着くべし」と云々。 |
しょういせいかく、ならびに しゃくしんくうしょうにんほうれん、「しんふたいのみざ につくべし」とうんぬん。 |
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つぎに沙弥法力熊谷直実入道遅参して申していはく、「善信御坊の御執筆な |
つぎに しゃみほうりきくまがいなおざねにゅうどうちさん して もう していはく、「ぜんしんのおんぼう の ごしゆひつ な |
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にごとぞや」と。善信上人のたまはく、「信不退・行不退の座をわけらるるな |
にごとぞや」と。 ぜんしんしょうにん のたまはく、 「しんふたい・ぎょうふたい の ざをわけらるるな |
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り」と。法力房申していはく、「しからば法力 もるべからず、信不退の座にま |
り」と。 ほうりき ぼうもうしていはく、「しからば ほうりき もるべからず、 しんふたい のざ にま |
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ゐるべし」と云々。よつてこれを書き載せたまふ。ここに数百人の門徒群居す |
ゐるべし」とうんぬん。よつてこれを かき のせたまふ。 ここに すうひゃくにん の もんとぐんきょす |
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といへども、さらに一言をのぶる人なし。これおそらくは自力の迷信に拘はり |
といへども、 さらに いちごんをのぶる ひ となし。これおそらくは じりき の めいしん にかか はり |
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て、金剛の真信に昏きがいたすところか。人みな無音のあひだ、執筆上人親 |
て、こんごうの しんしん に くら きがいたすところか。ひと みなぶいんのあひだ、しゆひつようにんしん |
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鸞自名を載せたまふ。ややしばらくありて大師聖人仰せられてのたまはく、 |
らん じみょう を の せたまふ。ややしばらくありて だいししょうにん おお
せられてのたまはく、 |
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「源空も信不退の座につらなりはんべるべし」と。そのとき門葉 、あるいは屈 |
「げんくう も しんふたい の ざ につらなりはんべるべし」と。そのとき もんよう、 あるいはくつ |
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敬の気をあらはし、あるいは鬱悔 の色をふくめり。 |
けい の き をあらはし、あるいは うつけ の いろ をふくめり。 |
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7 第七段 |
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上人親鸞のたまはく、いにしへわが大師聖人源空の御前に、正信房 ・ |
しょうにんしんらん のたまはく、いにしへわが だいししょうにんげんくう の おんまえ に、しょうしんぼう・ |
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勢観房・念仏房 以下のひとびとおほかりしとき、はかりなき諍論 をしはんべる |
せいかんぼう・ねんぶつぼういげ のひとびとおほかりしとき、 はかりなき じょうろん をしはんべる |
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ことありき。そのゆゑは、「聖人の御信心と善信(親鸞)が信心と、いささかも |
ことありき。そのゆゑは、「しょうにん の ごしんじん と ぜんしん(しんらん) が しんじんと、 いささかも |
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かはるところあるべからず、ただひとつなり」と申したりしに、このひとびと |
かはるところあるべからず、 ただひとつなり」 と もう したりしに、このひとびと |
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とがめていはく、「善信房の、聖人の御信心とわが信心とひとしと申さるるこ |
とがめていはく、「ぜんしんぼうの、 しょうにんの ごしんじん とわが しんじん とひとしと もう さるるこ |
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といはれなし、いかでかひとしかるべき」と。善信申していはく、「などかひと |
といはれなし、 いかでかひとしかるべき」と。 ぜんしんもう していはく、「などひと |
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しと申さざるべきや。そのゆゑは深智博覧にひとしからんとも申さばこそ、ま |
しと もう さざるべきや。そのゆゑは じんちはくらん にひとしからんとも もう さばそ、ま |
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ことにおほけなくもあらめ 。往生の信心にいたりては、ひとたび他力信心のこ |
ことにおほけなくもあらめ。 おうじゅう の しんじん にいたりては、ひとたび たりきん じんのこ |
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とわりをうけたまはりしよりこのかた、まつたくわたくしなし。しかれば聖人 |
とわりをうけたまはりしよりこのかた、 まつたくわたくしなし。 しかれば しょうにん |
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の御信心も他力よりたまはらせたまふ、善信が信心も他力なり。かるがゆゑに |
の ごしんじん も たりき よりたまはらせたまふ、 ぜんしん が しんじん も たりきなりかるがゆゑに |
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ひとしくしてかはるところなしと申すなり」と申しはんべりしところに、大師 |
ひとしくしてかはるところなしと もう すなり」と もう しはんべりしところに、だいし
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聖人まさしく仰せられてのたまはく、「信心のかはると申すは、自力の信にと |
しょうにん まさしく おお せられてのたまはく、「しんじん のかはると もう すは、 じりき しん にと |
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りてのことなり。すなはち智恵各別なるゆゑに信また各別なり。他力の信心 |
りてのことなり。 すなはち ちえかくべつ なるゆゑに しん また かくべつ なり。 たりき しんじん |
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は、善悪の凡夫ともに仏のかたよりたまはる信心なれば、源空が信心も善信房 |
は、ぜんあくのぼんぷ ともに ぶつのかたよりたまはる しんじんなれば、げんくうがしじんもぜんしんぼう |
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の信心もさらにかはるべからず 、ただひとつなり。わがかしこくて信ずるに |
の しんじん もさらにかはるべからず、 ただひとつなり。 わがかしこくて しんずるに |
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あらず、信心のかはりあうておはしまさんひとびとは、わがまゐらん浄土へは |
あらず、 しんじん のかはりあうておはしまさんひとびとは、 わがまゐらんじ ょうど へは |
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よもまゐりたまはじ 。よくよくこころえらるべ ことなり」と云々。ここに |
よもまゐりたまはじ。 よくよくこころえらるべきことなり」 と うんぬん。 ここに
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面舌をまき、口を閉ぢてやみにけり。 |
めんした をまき、くち を と ぢてやみにけり。 |