仏教入門 おしえて千葉先生 対談第二回
本願寺広島別院・安芸教区教務所 機関誌「見真」2007/04号
千葉乗隆 千葉山安楽寺 浄土真宗本願寺派

◎本願寺史研究の第一人者に聞く 対談第二回
  親鸞聖人の長生きの秘訣!
千葉乗隆イラスト
明田:
 親鸞聖人は800年もの昔に90歳まで長生きされました。長寿の秘訣は何ですか?
千葉先生:
 そうですね、心と肉体の問題は無関係にありえないわけです。くよくよ悩んでばかりいると、心だけでなく体の調子も崩してしまいます。心静かに平穏でいると、おのずから体調も良く、長生きできると思うのです。

明田:
 病は気からっていいますもんね。
千葉先生:
 そうですね、親鸞聖人は「自然法爾」ということをいわれます。分かり易くあえて簡単に解釈しますと、自然にうちまかせ、阿弥陀さまのお心のまま、あるがままを受け入れてお任せする生き方です。たおやかな、無理をしない生活、これが長寿の秘訣だと思います。また幸いに深刻な病いに罹られなかったこともあるとは思いますが。

明田:
 あるがままを受け入れるのですね。
千葉先生:
 ここで問題になるのは「死に様」です。聖人は88歳の時のお手紙に、2年にわたる大飢饉で多くの人が亡くなったことを、痛ましいことである、と取り上げられています。人間は縁によってどのような死に様をするか分からないのです。

しかし、真宗は「平生業成」ですから、日頃、元気な時から阿弥陀さまに救われていく身だという安心と確信をもっておられる方は、死に様や寿命の長い短いではなくて、たとえ飢饉でひもじい思いで力尽きても、病気でもがき苦しんで臨終にお念仏を称えられずに死んだとしても、お浄土参りをさせていただくことは間違いないと教えてくださっています。
  
明田:
 仏さまのお救いを日頃からシッカリと聞いておくことが大切なんですね。ところで先生にも自然法爾″なところはあるんですか?
千葉先生:
 僕は最近、パワフルじゃなくなりましてね。3つも病気をもっていて、今もペースメーカーで心臓を動かしてもらっています。心静かに念仏しながら往生させていただけない、痛い痛いと言って死ぬかもしれません。体がしんどい時には「あーこれでもう死ぬんか」「死んだら今やりかけの仕事は一体どうなるんか」なんて考えたりもします。まだ迷いに迷うている凡夫ですわ。親鸞聖人の時代ならとっくに死んでいますのに。

明田:
 そうでしたか。
千葉先生:
 ですから、もう「自然法爾」でいくしかないわけです。できることは務めますが、無理はできません。いくらジタバタしても、阿弥陀さまに必ず救われていくこの身であると信じて、すべてをお任せするより他にしょうがない。苦しい現実ばかりではありますが、その絶望を受け入れた先にも、必ずお浄土参りさせていただける、やすらぎの世界はあるのです。

明田:
 私はイヤなことがあると憂うつで仕方ありませんが、あるがままを受け入れるたおやかな生き方が大切ですね。目からウロコが落ちた気分です。

「お話し」: 千葉 乗隆: 本願寺史料研究所所長 龍谷大学名誉教授
「聞き手」: 明田 周士:安芸教区機関誌『見真』編集部
「イラスト提供」: 竹林地 俊人