臨終の善悪をば申さず
(本願寺Webサイト 2005/12/第4週)
千葉 乗隆

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   親鷲聖人は関東で20年ほどご教化につとめられ、多くの人々にお念仏をお伝えになられて、54歳のころ京都にお帰りになられました。そののち、関東のお念仏者の方たちには、お手紙によってご教化をされました。そのお手紙は、現在43通残っています。

 その43通のお手紙のなかで、お書きになられた年号が明らかなお手紙は9通です。その中で文応元年(1260年)11月13日に常陸国、現在の茨城県の念仏者、乗信房に宛ててお出しになられたお手紙は、親鸞聖人がご往生になられる2年前という、最もお年を召されたときに、お書きになられたお手紙です。その乗信房に宛てたお手紙のはじめに、「去年から今年にかけて、年老いた人や若い男女など、多くの人びとがなくなられたことは、まことにあわれなことです。」としるしておられます。

 これは、親鷲聖人が87歳から88歳に当たられる年に、日本列島は大飢饉に襲われてたくさんの人がなくなられたということです。     最近、日本では昨年から今年にかけて、新潟県中越地方の大地震や、台風の襲来によって、大被害を蒙りました。また、JR西白本福知山線の列車脱線事故で多くの人がなくなられ傷つきました。

 外国ではスマトラ沖の地震で津波が起こり、たくさんの人がなくなられました。また、アメリカのニューオリンズはハリケーンのために壊滅的被害をうけました。さらにこのほどはパキスタンのカシミールで大地震が発生し、多くの人びとが命を落とし家を失っています。

 こうした事故や自然災害のほかに、戦争やテロという人為的な行為によっても、多数の人の命が失われています。

 さらに日本では、インターネットで自殺希望者を募集して、練炭自殺するなどして、毎年3万人もの人が自ら命を絶っています。

 こうした災害などによって、人の命が失われることについて、親鷲聖人は乗信房に宛てたお手紙の中で、「多くの人びとが亡くなられることは、まことにあわれなことです。」とおしるしになられるとともに、「仏さまは、いつなん時、なにが起こるかわからないのが、この世の有り様である、とお説きになっておられます。それゆえに、どのような事が起ころうと、決しておどろくことはありません。わたくし親鷲はどのような死に方をしようと、かまいません。それは、仏さまのお救いを信ずるものは、必ずお浄土に生まれさせていただけるからです。しかし、世の中には死にざまや、死 んだあとのことについて、いろいろと議論をする人がいます。そのような学問的な問答はとりやめ、仏さまの仰せを信じて、お浄土に生まれるようになさってください。」と親鸞聖人はお手紙にしるしておられます。     親鸞聖人の時代にも議論好きの人がいたようであります。私たち現代人も議論が好きです。しかし、阿弥陀さまのお救いは、学問では解き明かすことは,できません。

 『歎異抄』の第十二条に『本願を信じ、念仏を申さば仏に成る。そのほか、なにの学問かは往生の要なるべきや。』(浄土真宗聖典 註釈版 839頁)としるしておられます。

 私たちは、ただただ仏さまのお救いを信じて、ナモアミタブツ、ナモアミタブツとお念仏することが、なによりも大切であることを、親鸞聖人はおすすめくださっておられます。